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母からこの言葉を教えられたのは、小生がちょうど大学を卒業して医師国家試験の直後に実家に帰っていた時でした。
彼女いわく「昔、医者は千人殺して一人前になるといわれた。いまは医学も進んだから百人殺して一人前ぐらいかもしれない。としてもがあなたの前には百本の十字架ができることになる。そのすべてを後悔と反省の念とともに一生背負って生きなくてはいけない。一本たりとも置いて行ってはいけない」と。
当時は正直いって何をいっているのかよく判りませんでしたし、その後研修医から若手医師として忙しく働いているうちに、言われたことすら忘れていました。
そんななか、ちょうど医師になって10年を過ぎようとしていた時に、ある30代の女性を助けることができなかったという経験をしました。(この話はいずれこのブログで改めて書きたいと思っていますが)外来で診察し、自分で入院させ、本人家族に話をして手術することを説得し、そして執刀。術後に合併症を起こし、全身状態が悪化、約3ヶ月頑張ったものの助けられませんでした。
確かに重症の病気でしたし、十分可能性のある術後合併症によるものでした。しかし、だから仕方がないと言えるのかと・・・ 医師として10年経って、一人前になった気になって慢心していなかったか。全力を尽くして彼女の病態を理解し、可能な限りの対応をしたのか。改善方向に向かったときに気を緩めなかったか。
こうして考えると、いろいろな反省点が見えてきました。もっとやるべきことがあったし、もっと自分に技術や知識があったら助けられたかもしれない。もっと力を尽くすべきところがあったのではないか。もちろん、そうやったからといって助けることはできなかったかもしれません。しかし、助けることもできたかもしれないのです。このとき、10年前に母から言われたこの言葉を思い出しました。
「医者はすべての十字架を背負って生きなければいけない」
母が見落としていた患者の胃癌を私が見つけた時、一瞬顔を歪めたものの言い訳は全くしませんでした。「あなたの病院でしっかりと手術してあげて」と言われただけでした。 彼女が背負ったその十字架は、8年前に彼女とともに荼毘に付されたはずです。